星空公団
〜街と星空の共存を目指して〜

【研究報告】Sky Quality Meterの有効性

2015-03-19 発行
2016-05-29 更新

調査の背景

Sky Quality Meterは、単素子のフォトダイオードと色補正フィルターを使用し、測定値を単位立体角あたりの等級で表示する簡易測定装置です。 フォトダイオードの感度は出荷時に校正されていて、内部回路でフォトダイオードの出力値を明るさに換算しているため、出力される値は単位立体角あたりの等級値と温度のみです。 Sky Quality Meterには、レンズなしのモデル(SQM)およびレンズ付きのモデル(SQM-L)があり、視野の半値幅はそれぞれカタログ値で80°と20°になっています。

最近、夜空の明るさ調査において測定値が簡単に得られることから、このSky Quality Meterを用いた調査結果が多く報告されています。 例えば、2009年から2014年の日本天文学会ジュニアセッションの発表件数を見ると、SQM/SQM-Lを用いたものが28件、写真/デジカメ測光が13件、眼視が6件、照度計を用いたものが3件とSky Quality Meterを使用した調査例が過半数です。 これは、ボタンを押すだけで測定できる手軽さが普及の理由ではないかと考えられますが、その測定器について評価を行った例は群馬県立前橋女子高等学校地学部の1件のみです。 この調査結果で、明るい条件ではSQM-Lがより明るい値を示す傾向があることから、周囲の光源に大きく影響される可能性が示唆されています。 このため星空公団では、Sky Quality Meterの分光感度特性、視野角の評価を行って、夜空の明るさ測定における有効性を検証しました。

評価結果

分光特性

Sky Quality Meterは、センサとして単素子のフォトダイオード(ams AG TSL237)を、赤外カットフィルタとして色補正フィルター(HOYA CM-500)を使用しています。 この検討では、フォトダイオードの分光感度およびフィルタの透過特性のカタログ値を用いてSky Quality Meterとしての分光感度特性を求め、Johnson UBVシステムのVバンドフィルタとの比較を行いました。

図1にSky Quality MeterとJohnson Vフィルタの分光感度特性を示します。 測定結果からSky Quality Meterの分光感度特性はJohnson Vフィルタに比べ、かなり広い波長特性を持つことがわかります。 このため、従来の調査で用いられているVバンドを用いた測定結果と単純に比較することは難しいと考えられます。 また、照明として用いられている光源は、波長特性が平坦ではなく、光源の種類によって測定値がばらつく可能性もあります。

Sky Quality MeterとJohnson Vフィルタの分光感度特性
図1: Sky Quality MeterとJohnson Vフィルタの分光感度特性

視野角

Sky Quality Meterの視野角を求めるため、白色LEDを用いた点光源に対してSQM-Lの角度を5°刻みで-90°から90°まで変化させ、出力値の変化を測定しました。測定はSQM-Lのセンサ部に対し直行する2軸で行い、両者の差についても比較を行っています。

図2に、SQM-Lの感度の視野角依存性の測定結果を示します。 測定値については中心(0°)の測定値を基準とし、その差を求めています。 水平方向と垂直方向では、感度に若干の差が見られました。 Sky Quality Meterのセンサ周辺はいずれの方向も対象な構造であることから、この差はハウジングの散乱による影響であると考えられます。 一般的な照明は、夜空と比較して100倍以上の明るさを持つため、照明の影響を避けるためには感度が中心と比較して1000分の1程度であればよいことになります。 図2から、感度が1000分の1、すなわち-7.5等級/”□以下となるのは80°以上であり、斜め上方からの光に弱いことは明らかです。

SQM-Lの感度の視野角依存性
図2: SQM-Lの感度の視野角依存性

実環境下での評価

実際に測定を行う環境を模擬するため、標準的な街灯(高さ5 m)付近において、街灯からの距離と測定値の比較を行いました。測定は、Sky Quality Meter(SQMおよびSQM-L)のほか、デジタル一眼カメラ(Canon EOS Kiss X7および標準ズームレンズ18-55 mm)を用いた測定も行い、比較しました。

図3に標準的な街灯付近での測定結果を示します。 この図から、街灯(高さ5 m)の影響が0.1等級以下となる距離を比較すると、SQM-Lでは15 m以上、SQMでは20 m以上離れる必要があることがわかります。 実際の市街地においては、照明から水平方向に15 m以上離れることは困難です。 このため、周囲の照明の影響を受けないよう高い場所での測定が必要であることがわかりました。 一方で、実際の光害の問題を考える上では、人々が生活している地上付近での評価を行うべきであり、そういった目的にはSQM-Lは適さないことが明らかになりました。

標準的な街灯付近での測定結果
図3: 標準的な街灯付近での測定結果

まとめ

近年、調査事例が増えているSky Quality Meterの分光感度特性および視野角を測定し、実環境下での照明の影響を評価しました。 その結果、Sky Quality Meterは広い波長に感度を持っており、これまでのCCDやデジタル一眼カメラを用いた調査結果との直接比較することが困難であることがわかりました。 また、SQM-Lの視野角測定結果から、この測定器は視野が広く、特に市街地での測定は困難であることが明らかになりました。 さらに、単素子であるため、天候条件などを確認できないことから、単独での自動測定は困難です。

これらの結果から、Sky Quality Meter(SQMおよびSQM-L)は、市街地における光害調査を目的とした測定には推奨できません。 やむを得ず使用する場合には、周囲の街灯に十分注意するとともに、カメラ等を用いて天候や周囲の状況が確認できるような記録方法を併用する必要があります。